社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
学術会議をめぐる論争を見ていると「またか」という既視感を覚える。
  1. 政府が学術会議の名簿のうち6人を任命しなかったのは違法か?
  2. 学術会議の会員になれないことは学問の自由の侵害か?
  3. 学術会議は科学に多大な貢献をしているか?
以上はいずれも正しいか否かで答えられる事実問題だが、その答はきれいに二分される。たとえば木村草太氏と百田尚樹氏がこの3問にどう答えるかは、目をつむってもわかる(彼らはその予想どおり答えた)。

こういう傾向はアメリカでも同じで、最初から党派的に意見を決めて答える人が多い。これを「アメリカが分断されている」などというが、そういう傾向は今に始まったものではなく、アメリカだけの問題でもない。上のように日本でも(対立軸がちょっと違うが)みられる。

それはヒュームが指摘したように、理性は感情の奴隷だからである。人は感情にもとづいて行動し、それを理性で正当化するのだ。このような感情と理性の関係を、本書は象とそれに乗る人にたとえる。

脳の情報処理の90%以上は進化の初期に発達した象の部分で行なわれており、反応も速い。乗る人の部分は処理が遅くコストがかかり、教育しないと発達しない。政治的な議論が、政策の中身ではなく「右か左か」というイデオロギー論争になるのも、人々を動かすのが象だからである。

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