道徳の自然誌
ものを盗んではいけないとか、嘘をついてはいけないというモラルは、合理的に説明できない。ものを盗むことは合理的なので、それを抑止する心理的メカニズムが必要だ。ゲーム理論では、利己的な個人の戦略的行動の結果としてモラル(協力)を説明するが、それが成立する条件はきわめて限定的で、現実には成り立たない。

社会性昆虫の協力的行動は血縁淘汰でほぼ完璧に説明できるが、人間の複雑な道徳は説明できない。それを遺伝的な集団淘汰で説明する理論にも限界がある。狩猟採集社会では個人の流動が多く、遺伝子レベルの突然変異は定着しないからだ。

本書が提案するのは、第3の文化的淘汰ともいうべきものだ。ここでは血縁淘汰も集団淘汰も機能しているが、重要なのはDNAではなく、人間の感情である。それはゲーム理論の想定するような戦略的行動ではなく、集団間の競争で生まれた共同志向性(shared intentionality)だという。

これは哲学的な概念だが、それを生み出したのは思弁ではなく試行錯誤である。他人と同じ行動をとる人の多い集団が戦争に勝ち、負けた集団は消滅するか、勝った集団の奴隷になる。その中で共同志向性の強い集団が協力して戦争に勝ち、宗教や道徳を蓄積したのだ。

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