安倍内閣の支持率が高かった要因としては「景気がよくなった」という印象があるのだろう。これは間違いではない。「アンチビジネス」だった民主党政権に比べれば、自民党政権の「プロビジネス」で景気がよくなったことは明らかだが、全体として「アベノミクスの成果」といえるものがあったのかどうかは疑問である。

まずアベノミクスの看板だった「異次元の量的緩和によるデフレ脱却」の成果は、図のように-0.5~0.5%の消費者物価上昇率で、これは不可である。2014年の初めだけ瞬間風速でインフレ率が2%を超えたが、これは急激なドル高による輸入物価の上昇で、その後、原油価格が下がったため元に戻った。

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消費者物価上昇率(総務省統計局)

アベノミクスを弁護する人々がよくいうのは「雇用が改善した」という話だが、失業率の低下は世界金融危機からの回復にともなう循環的な現象で、民主党政権の2009年から始まっている。これは図のように主要国でほぼ共通で、日本だけが大きく改善したわけではないのでだろう。

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世界の失業率(社会実情データ図録)

雇用はGDPの従属変数であり、それだけ取り出して論じても意味がない。日本の一人あたりGDPはG7の中でイタリアに次いでビリから2番目であり、安倍政権でその順位は変わらなかった。これは不可である。

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一人あたりGDP(IMF)

安倍政権の失敗は、金融・財政政策による需要側の政策に片寄ったことだ。おかげで生産性上昇率は低下し、潜在成長率はほぼゼロになった。これも不可である。安倍政権で日本経済は最悪の時期を脱したが、長期停滞から脱却できない「失われた8年」だった。

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