今年、財政政策には革命が起こった、とフィッシャーは論じている。今年、欧米の政府がばらまいた財政資金は、世界金融危機後の7年間の合計の2倍を上回る、平時では未曾有の規模だった。その最大の特徴は、政府が銀行を通さないで国民に直接給付したことだ。

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第2の特徴は、財政と金融が一体化したことだ。中央銀行の独立性という原則は放棄され、政府支出を中央銀行が引き受ける大規模な「財政ファイナンス」が行われた。各国政府は意図していないが、これは1980年代にFRBのボルカー議長が不況期に金利を上げてスタグフレーションを止めたとき以来の財政・金融政策の革命である。

MMTは「自国通貨を発行できる国はデフォルトしない」というが、これは誤りである。名目債務のデフォルトは起こらないが、インフレになったら実質債務のデフォルトが起こるのだ。

今はロックダウンや自粛で総需要が落ち込んでいるのでインフレの心配はないが、そのうち設備投資が回復するとインフレ圧力が高まる。政府が無原則なバラマキを続けていると、インフレが止まらなくなる。金利が上がると、バランスシートの膨張した中央銀行が債務超過になる。非常時の財政からの出口戦略が必要だ。
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フィッシャーの提案する戦略は、SEFF(standing emergency fiscal facility)という条件つき財政ファイナンスである。これは図のようにゼロ金利が続く限り中央銀行が国債を買い入れ、インフレ率が上がったら買い入れをやめて金利を上げるもので、日銀のイールドカーブ・コントロールと似た金利目標である。

問題は財政ファイナンスをやめたらインフレが止まるのかということだ。長期金利が上がると国債が暴落し、銀行が国債を投げ売りする。それを防ぐために日銀が国債をすべて買い取ると、マネタリーベースが急増して財政インフレが起こり、さらに名目金利が上がる悪循環になるリスクがある。

こういうヘリコプターマネーの提案はいろいろあるが、今は全世界的に巨額のヘリマネをやってしまった状況なので、それをソフトランディングさせる出口戦略について議論が必要だろう。日銀がいつまでも出口戦略に言及しないのは危険である。