ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)新型コロナ騒動もようやく落ち着きましたが、終わってみると(日本では)インフルエンザ程度の風邪でした。それは驚くことではないのですが、驚いたのは社会の大パニックです。4月ごろまではしょうがないとしても、5月以降、日本の被害は大したことないとわかってからも、マスコミは騒ぎ続けました。

こういうゼロリスク脳は、福島第一原発事故のときと同じパターンで、そこには何かの法則性があると思われます。それは論理や事実の問題ではありません。どちらも科学的事実ははっきりしており、コロナも福島の処理水も生命を脅かすようなリスクではありません。

ではなぜ人々はこのように強い恐怖を抱くのでしょうか。それは恐怖が遺伝的にそなわった古い脳の機能だからです。自分より強そうな動物が来たら瞬時に逃げる行動は、犬や猫にもみられる「速い思考」です。これは脳の辺縁系と呼ばれる部分の機能で、他の哺乳類とほとんど変わりません。

それに対して「感染率は高いが死亡率は低い」などと論理的に考える能力は、大脳皮質などの新しい脳の機能で、ここ数百万年に発達したものです。それはエネルギーの必要な「遅い思考」で、情報収集などのコストがかかるので、人はいったん速い思考で決めた結論を変えないことが多い。

このように人間の思考が二重構造になっているという仮説は、行動経済学や進化心理学で広く認められ、多くの実証データが蓄積されています。10月からのアゴラ読書塾「古い脳と新しい脳」では、そういう最新のデータを紹介し、それをビジネスなどの意思決定にどう生かすかを考えます。

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