アベノミクスは不発に終わり、安倍首相の辞任会見に「アベノミクス」という言葉は一度も出てこなかった。金融政策にできることはもうないというのが世界的なコンセンサスだが、まだ残された手段があるかもしれない。

日本経済の最大の問題は貯蓄過剰による総需要の不足だという点で、多くの経済学者の意見は一致しているが、その原因は謎である。特に企業がGDP比で25%以上も貯蓄しているのは世界に類を見ない異常な現象だが、先週紹介した深尾京司氏の本にその謎を解くヒントがある。

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図のように1970年ごろまで日本の貯蓄率は高かったが、投資も旺盛だったので、民間貯蓄と民間投資はバランスしていた。それが70年代から投資が落ち込んだため、貯蓄超過というより投資不足が起こったのだ。

その原因として、この時期に変動相場制に移行したことが考えられる。1971年までは1ドル=360円だったが、変動相場制で200円台になり、1985年のプラザ合意で120円台になった。この急激な円高で輸出産業の投資が大幅に落ち込む「円高不況」が起こった。

日本の大きな貿易黒字は貿易摩擦の原因になり、アメリカが「黒字減らし」の圧力をかけた。このとき(私を含めて)多くの人が「貿易黒字を減らすために円高になるのはしょうがない」と思ったが、経常収支がゼロになる必要はない。マクロ経済のISバランスでは

 貯蓄-投資=経常収支黒字+財政赤字

なので、投資が減ったら大幅な貿易黒字が出るのは当たり前である。つまり日本の貿易黒字は多すぎたのではなく、少なすぎたのだ。内需の不足を補うには外需(輸出増)が必要で、そのためには円安が必要だった。その意味では1ドル=360円のほうが貯蓄と投資を一致させて完全雇用を実現する均衡実質為替レートに近かった。

大幅な投資不足になると金利が(自然利子率まで)下がり、投資が増える。それが1980年代後半に起こったバブルである。上の図のように1990年ごろには貯蓄=投資になったが、バブルが崩壊して、また大幅な投資不足に陥った。その最大の原因も円高だった。

経常収支の大幅な黒字は、今も基本的に変わっていない(貿易収支より所得収支の黒字が大きくなった)。1ドル=100円前後というのは均衡レートに比べると大幅に円高なので、もし1ドル=200円ぐらいに誘導できれば、中国との価格差がなくなって生産拠点が国内に戻り、投資不足は解消できるかもしれない。

これは政治的にはきわめてむずかしい問題だが、あとの議論はアゴラサロンで。