「モノプソニー」という経済学者以外の人は聞いたこともない言葉が、ちょっと話題になっている。これはアトキンソンが最低賃金を上げる理由として提唱しているものだ。普通は最低賃金を上げると労働需要が減って失業が増えるが、企業(労働の買い手)が独占的な地位にある買い手独占(モノプソニー)の場合はそうならないのだ。

たとえばある町に、デパートが一つしかないとしよう。労働生産性は時給1000円だが、売り子の時給500円だとすると、夫が働いている主婦は、そんな時給ではばかばかしいので働くのをやめてしまう。

ここで最低賃金が1000円になったとしよう。これは労働生産性に見合うので、主婦はパートで働くようになり、デパートも損しないので雇用を増やす。このように労働者が職場を選べないときは、賃金を上げると雇用が増えることがある。アメリカでは多くの実証研究で、最低賃金を引き上げても失業率は上がらないことがわかっている。

日本ではあまり実証研究はないが、ある意味ではモノプソニーの大規模な実験が行われている。日本の労働者は終身雇用で会社を選べないので、賃金が労働生産性より低くても会社をやめることができない。こういう状況では人手不足でも賃金が上がらず、賃金は労働組合の交渉力に依存する。ところが正社員とパートタイム労働者の競争が激しくなると、労組は賃上げを自粛して雇用を守ろうとするのだ。

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