Viruses, Plagues, and History: Past, Present and Future (English Edition)
Black Lives Matterは日本人には無縁の騒ぎだが、アメリカ社会の恥部にふれる問題である。資本主義を生んだのは産業革命でもプロテスタントの倫理でもなく、植民地支配と奴隷貿易だった。それが英米人の原罪であり、彼らは永遠に許されない。

その黒歴史の中で、感染症は重要な役割を果たした。新大陸の侵略が容易だったのはスペイン人の持ち込んだ天然痘に免疫のなかった先住民が、病気でほとんど絶滅したからだが、これによって労働力がなくなり、スペイン人の植民地経営は失敗した。

これに対してイギリス人は、アフリカから1500万人の奴隷をカリブ海に連れてきて砂糖のプランテーションを行ない、それをヨーロッパに売る三角貿易で巨額の利潤を上げた。この利潤がイギリスの資本家の本源的蓄積になった。

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天然痘に続いて新大陸では、黄熱病が流行した。それは西アフリカの風土病だったが、ウイルスが奴隷船で新大陸に運ばれたのだ。黄熱病には白人も免疫がなかったが、黒人は免疫があった。このため新大陸で黒人は最強の労働力となったが、白人は黒人を隔離するようになった。これが人種隔離(segregation)の起源である。

感染症が合衆国の形を決めた

当時はフランスもハイチなどに植民地をもっていたが、現地の黒人奴隷が反乱を起こしたので、ナポレオンは2万7000人の軍を派遣した。ところがこれが黄熱病で全滅したため、フランスは新大陸の植民地から撤退し、ルイジアナをアメリカ合衆国に売却した。

合衆国軍は北上してカナダを統一しようとしたが、ケベックで天然痘に大量感染し、撤退した。その代わりルイジアナを買収した合衆国は西部を開拓し、フランスと戦うことなく東西を統一した。合衆国が今の形で統一された原因には、感染症が大きな影響を与えているのだ。

しかしこうした歴史はほとんど語られない。感染症は植民地支配というヨーロッパの黒歴史と一体だからである。BLMはそういうヨーロッパの恥部を暴き、公民権運動のきっかけになった人種隔離の起源が植民地支配にあることを明らかにした。

現代の価値観で200年前の歴史を裁いてもしょうがないが、黒人のアイデンティティを考える上ではこういう歴史を考え直すことにも意味があろう。