日本の驚異的に低い新型コロナ死亡率が、世界の話題になり始めた。たとえばイギリスの累計死者数は約3万人で、日本は550人。人口比でみると100倍近く違う。この差は、自粛や生活様式では説明できない。イギリスのロックダウンは法的強制による外出禁止令なので、それよりゆるやかな日本の自粛でこんな差が出ることはありえない。

uk
ft.com

では原因は何だろうか。感染者数をx、回復者数をyとし、感染者数の変化率を実効再生産数Rtとすると、単純化したSIRモデル

Rt=Ro(1-x-y)x-x

と書ける。このモデルで計算してみるとわかるが、基本再生産数Roの影響が圧倒的に大きく、それ以外の変数をいじっても大した変化がない。ここでは所与のRoが社会全体に共通で永久に続くと仮定しているが、現実にはそんなことはありえない。

一つの国で異なるRoの集団がある場合、その影響は自粛や生活習慣などの変数よりはるかに大きいので、集団ごとの減衰は大きく異なる。人口を老年・中年・若年の3世代モデルでシミュレーションしたのが、アセモグルのマルチグループSIRモデルである。

同じ計算は免疫力でもできる。たとえば(BCG接種で)自然免疫の強い人と弱い人の混合した集団ではRoが違うので、死亡率も大きく違う。これが日本の死亡率の一つの説明である。

ロックダウンのターゲット政策

ここでは3つの集団が別の再生産数をもち、その感染力(再生産数)が異なると考える。図の左のようにロックダウンで接触制限すると、200日ぐらいで感染は減り始め、400日ぐらいで流行が終わる(yは若年、mは中年、oは老年)。

ace

致死率の高い老年をきびしく外出制限し、中年と若年を自由にするターゲット政策をとると、感染率は図の右のように若年集団が最高で老年集団が最低になるが、死亡率(図の中の表)は下がる。

つまり老人の外出を制限してそれ以外の行動制限を緩和することで、社会全体が安全になる。ここでは老年の生み出す付加価値はゼロと仮定しているので、中年・若年の生み出す価値は増え、経済的な価値は最大になる。

これ自体はモデルの仮定から出てくることで、そうおもしろい結果ではないが、ロックダウンを老人に限定することで、社会全体の付加価値が増えることが重要である。この結果、ターゲット政策によって安全性と経済的価値のトレードオフが緩和される。

同じ計算は免疫機能でもできる。たとえば(BCG接種で)自然免疫の強い集団Aと弱い人の混合した集団Bでは再生産数が違うので、致死率も大きく違うとしよう。上と同じように、AとBを分離してAを自由にし、Bだけに外出制限すると、社会全体の死亡率は下がる。

ここでBを入国する外国人と考えると、検疫で外国人をPCR検査し、陽性の人はその後も行動制限する政策に相当する。このような条件つき行動制限が、一つの政策として考えられるだろう。