アゴラで書いたように、今年の初めから日本でインフルエンザの患者が急に減った原因が新型コロナウイルスの上陸だとすると、アメリカの状況は予想以上に危険である。今シーズンのインフルエンザの患者が2600万人、死者が1万4000人という大流行になったアメリカには、新型コロナウイルスは上陸していないからだ。

新型コロナの免疫がほぼゼロという状態から、3月になって感染が始まったとすると、これはファーガソンなどの書いたインペリアル・カレッジの報告とほぼ同じ状況である。そのシミュレーションによれば、基本再生産数が2.4とすると、アメリカ国民の81%が新型コロナに感染し、次の図のように何も対策をとらないと220万人が死亡する

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英米の新型コロナ死者の予測(インペリアル・カレッジ)

イギリスについては51万人の死者を集団免疫戦略で25万人に減らす(ベストケース)政策が提言されているが、アメリカについては何も書いてない。イギリスと同じような政策を想定すると、約100万人が死亡することになる。これは第2次大戦の死者30万人の3倍である。

1930年代は再来するか

1918年のスペイン風邪でもアメリカでは50万人が死亡しているので、人口がその3倍になった現在、100万人が死亡するという想定はそれほど突飛ではない。これはリーマンショックどころではない国家の危機である。

失業率も急上昇するだろう。アメリカの失業給付の申請は、一週間で330万人という史上最高の5倍を記録。これだけで失業率が1%上がったことになる。 最終的には10%を大きく超え、1930年代のような大恐慌になっても不思議はない。

パンデミックの発火点になった中国の死者は3300人。アメリカの死者がそれをはるかに上回ることは確実だ。「民主主義は独裁よりすぐれた政治システムだ」 というアメリカの価値観がゆらぎ、サンダースに代表される社会主義の勢いが増すかもしれない。

こういうとき最大の失業対策は戦争である。大恐慌が終わったのも、ケインズ政策ではなく戦争のおかげだった。ルーズベルト大統領が日本を戦争に追い込んだように、トランプ大統領が中国を挑発して戦争を開始させる可能性もある。

もちろんこれは万が一のシナリオである。治療薬ができるとか、春になったら消えるとか、コロナが短期に終息すれば、金融危機のような後遺症は少ないだろう。それでもグローバルなサプライチェーンが寸断され、 グローバル化が逆転する影響は大きい。世界経済が2010年代を超える長期停滞に入る可能性もある。