感染症と文明――共生への道 (岩波新書)
感染症は人類の最大の脅威であり、その歴史を大きく変えてきた。狩猟採集社会で人間が小集団で移動していたころは、感染症の脅威はそれほど大きくなかった。小集団の中では病原体はすぐ広がり、ほとんどの人が免疫をもつからだ。これが集団免疫である。

感染症の流行は、定住とともに始まった。人間の排泄した糞便は居住地の周囲に集積され、病原体を培養した。農耕で生み出された余剰作物は蓄積され、病原体を媒介するネズミなどの小動物が増えた。家畜も、動物起源の病原体を人間社会に持ち込んだ。

古代文明は「感染症のゆりかご」だった。世界史上初めて大規模な定住社会となったメソポタミアでは、たびたび感染症が大流行した。そのとき周辺部にいた健康な民族が侵入したが、文明の中では免疫がないため絶滅した。集団免疫は、文明を守る生物学的な防護壁となったのだ。

つねに新しい感染症が出現し、それが文明の交替をもたらした。天然痘やペストは文明を滅ぼし、それに対する免疫を獲得した文明が生き残った。人類が感染症を根絶することはできないが、集団免疫でそれと共生することはできる。それは多くの犠牲をもたらす不愉快な状態だが、おそらく人類の生き残る唯一の道だろう。

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