非常にややこしい話だが、新型コロナの問題を理解する上で重要なので説明しておく。専門家会議の資料は日本の実効再生産数Rが1を下回ったという驚くべき事実を明らかにしたが、後半ではトーンが変わっている。

この資料の9ページにある西浦博氏のシミュレーションによれば、減っている感染が局地的な「オーバーシュート」で反転する可能性があるという。
基本再生産数(Ro:すべての者が感受性を有する集団において1人の感染者が生み出した二次感染者数の平均値)が欧州(ドイツ並み)のRo=2.5 程度であるとすると、症状の出ない人や軽症の人を含めて、流行 50 日目には 1 日の新規感染者数が 5,414 人にのぼり、最終的に人口の 79.9%が感染すると考えられます

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基本再生産数Ro=2.5の場合の重篤患者数(専門家会議の資料より)

このシミュレーションによると人口の79.9%、つまり約1億人が感染する。致死率1%としても、100万人が死亡する計算だ。ここまでR<1になったというデータで議論しているのに、ここで初めてRoという概念が出てくる。

Ro=2.5になる根拠は書いてないが、これはWHOの想定する1.4~2.5の上限である。このRとRoの関係が書いてないので、普通の人は「一時的には感染が下火になったが、また反転する」と解釈するだろうが、そうではないのだ。

実際の感染拡大を決めるのはRで、それが1になったとき感染拡大は止まる。Rは予防接種の効果を考えるときの変数で、予防接種で免疫を獲得した人の比率をHとすると、

 R=Ro(1-H)=1

となるとき集団免疫が成立する。このHが集団免疫率だが、コロナには予防接種がきかないので、Hを感受性をもたない人の「鈍感率」と考えよう。Hが日本人に固有の遺伝的な特性だとすると急に上がることは考えられないが、生活習慣の違いだとすると上がる可能性もある。

西浦氏は北海道で0.7になったRが、その3倍以上になると想定している。その理由は不明だが、コロナの「本当の感染力」は2.5で、今の1以下というRは一時的に自粛で下がっただけだと考えているのだろう。たとえば北海道で緊急事態宣言が終わると人々の接触が再開されて局地的にHが上がり、Rが少しRoに近づくことは考えられる。

だが全国でRが3倍に激増することはありえない(予防接種のない場合はR≒Roと考えるのが普通だ)。つまりRo=2.5という想定は日本では過大評価であり、その実態はRに近い(たかだか1~1.4程度)と思われる。終息し始めたコロナの感染が、オーバーシュートして大きく上がることは考えにくい。このシミュレーションは、過大評価の疑いが強い。