新型肺炎で自粛とパニックの連鎖が続いている。まだ正確な統計は出ていないが、観光業や外食業は壊滅的な状況だ。中国からの外需も大幅に減っており、日本経済へのダメージは大きい。昨年の第4四半期の成長率はマイナス1.6%(年率マイナス6.3%)だったが、今年の第1四半期は年率マイナス10%ぐらいになるのではないか。

日銀の黒田総裁は「必要があれば躊躇なく追加緩和する」とお決まりのコメントをしたが、マイナス金利の状況でこれ以上緩和しても何の意味もない。それより大型の補正予算を組む必要がある。名目は「新型肺炎緊急対策」 なら数兆円出せるだろう。そのためには国債の増発が必要だ。黒田総裁も認めた財政と金融の協調を実行するときである。

これは伝統的なポリシーミックスではなく、財政赤字を日銀が埋める財政ファイナンスであり、日銀はそれを明示的に宣言したほうがいい。従来の量的緩和の延長だと思われると市場は何も反応しないので、フィッシャーの提言するように「これは財政政策だ」という目的を明示すべきだ。

このとき最大のリスクは「財政赤字が無限に拡大する」と市場が判断して国債を売ることなので、それを防ぐために日銀が財政を監視するルールをつくってはどうだろうか。たとえば名目成長率の目標を3%と決め、そこに到達するまで財政赤字を拡大する。金利が急上昇した場合は補正予算の執行を停止する。その判断は日銀政策委員会が行なって財務省に助言する。

「短期財政ファイナンス」の実験

ゼロ金利状況で景気対策の主役は財政政策になったが、その枠組はいまだに明確ではない。財政には金融政策のような柔軟性がないので、いったん歳出を拡大すると縮小することが政治的にむずかしい。減税して増税することも容易ではないので、財政赤字を短期で止めるしくみが必要だ。

それには日本独特の補正予算という制度が便利である。支出としては観光業や外食業に対する補助金が考えられる。財政的には筋のいいものではないが、自粛のダメージは特定の業界に限られるので、いつでもやめられる裁量的な補助金が望ましい。

これまで財政ファイナンスが禁忌だったのは、中央銀行が国債をいくらでも買う前例ができると、政府債務に歯止めがなくなると市場が判断して金利が上がるからだが、今回の「新型コロナ不況」は長くても半年程度だから、これが財政赤字の長期的な拡大につながると思う人はいないだろう。

ただ財政拡大がなし崩しに拡大することを防ぐ歯止めは必要だ。それにはインフレ目標は役に立たないので、フィッシャーのように長期金利を基準にすることも一案だろう。財政拡大でGDPは確実に増えるので、名目GDP成長率を目標とすることも考えられる。

もう一つのリスクは、外為市場で円が売られることだ。これについて機動的に対応するためには、日銀に為替介入の権限をもたせる必要がある。これには法改正が必要だが、今でも日銀が事実上の財政政策をやっているので、為替だけを例外にする必要はない。

ただ日銀が全面的に財政従属になってしまうと財政支出の歯止めがなくなるので、日銀の独立性は守る必要がある。フィッシャーの提案のように日銀が財政赤字の限度を決めてそれまでは財政ファイナンスを行い、一定の目標に達したら買い入れをやめるルールが必要だ。

こういう財政出動は平時にはやるべきではないが、緊急事態への対応策としては必要だ。誤解を恐れずにいえば、今回の問題は「短期財政ファイナンス」の実験を行うチャンスである。