2000年以降の日本で物価が上がらない最大の原因は、先進国の中で日本だけ名目賃金が下がったことだ。これは製造業の賃金が中国に引っ張られて下がり、生産拠点の海外移転が進んだからで、中国の人件費が上がって日中の単位労働コスト(ULC)は2012年ごろ逆転した。

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各国の単位労働コストの比較(経産省「ものづくり白書」)

名目賃金は日本が約2800ドル、中国(都市部)が約500ドルとまだ大幅な差があるが、賃金を付加価値で割ったULC(名目雇用者報酬/名目GDP)でみると、日本は中国より低くなった。これは2012年以降の人民元レート上昇の影響もあるが、2000年ごろ3倍以上だった日本と中国の賃金格差が、大幅に縮まったことは明らかだ。

これは1990年代から始まった大収斂の必然的な結果で、この傾向は逆転しないだろう。上の図でもわかるように、OECD諸国でもアジアでも、ULCが収斂する傾向は一貫している。「グローバル化で格差が拡大する」という通念とは逆に、賃金格差はグローバルには縮小しているのだ。

その結果、日本では中国と競合する単純労働者の賃金が下がり、中間層が没落して国内の格差が拡大している。このグローバルに生産要素が一物一価になる要素価格均等化の傾向を「デフレ」と誤解して、マクロ経済政策で止めようとしたことが安倍政権の失敗だった。

それでもグローバル化は止まらない

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製造業の海外生産比率(経産省「海外事業基本調査」)

ULCの低下によって、図のように製造業の海外生産比率も頭打ちになっているが、これから「国内回帰」が始まるかどうかは疑問だ。経産省の海外事業基本調査でも、海外生産するかどうかの理由として企業がトップにあげるのは「現地の製品需要が旺盛」だということで、68%を占める。「人件費が安い」というのは16%である。

人口減少で市場が縮小する日本で、これから投資を増やすことは考えにくい。実際に起こっているのは、人件費の上がった中国から、もっと人件費の安い他のアジア諸国への生産拠点の移転である。しかし最初の図でもわかるようにタイのULCも上がっているので、もっと賃金の安いバングラデシュやミャンマーなどへの移転が起こっている。

この問題を解決することはむずかしい。人口減少は避けられない現象であり、生産年齢人口も減ってゆく。それを埋め合わせる生産性の上昇があればいいのだが、生産性上昇率は下がっている。就業人口は老人や最近は主婦の労働参加で増えているが、消費者としての現役世代は減ってゆく。

こうしたグローバル化の圧力が企業の新陳代謝を進める圧力になればいいのだが、短期のマクロ経済政策しか眼中にない安倍政権では、それも望み薄である。