日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)
小熊英二氏の本はいつも冗漫だ。本書も新書なのに600ページもある。「日本社会のしくみ」と銘打っているが、中身は日本的雇用慣行の話で、ほとんどは経済学の文献サーベイだ。おさらいとしては便利だが、経済学を学んだ人が読む価値はない。

終身雇用・年功序列などと呼ばれる日本的雇用慣行は、普遍的なものではない。日本の労働政策は大企業の正社員を理想としているが、こういう「大企業型」の雇用形態は労働者全体の25%程度で、それ以外の「地元型」(中小企業)が35%、「残余型」(非正規)が40%である。

その待遇の差は大きく、大企業型以外の労働者は雇用を保障されていない。正社員と非正社員の賃金格差は(時給ベースで)ほぼ2倍というのが、戦後の定型的事実である。 これが「二重構造」として多くの労働経済学者が批判してきた問題だが、正社員はメンバーシップなので、社員が会社に人的投資するには、レント(競争的な水準を超える賃金)が必要だ。

こういう本書の労働観は、もう一昔前の話だ。グローバル化やITで正社員の価値は下がり、大企業型の必要な仕事はもう労働人口の1割もないだろう。それでも厚労省は正社員を理想とし、安倍首相は「非正規という言葉を一掃する」という。この言葉は逆の意味で実現するだろう。雇用規制をきらう大企業は海外に出て行き、非正社員はコンピュータに置き換えられ、正社員を抱える中小企業は消えてゆくからだ。

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