MMTはマクロ経済学的には新しい話ではないが、正しい点もある。ケルトンも日本で明言したように、ゼロ金利では量的緩和でマネーは増えないということだ。MMTは預金が「信用乗数」で増えて信用創造が行なわれるという通説を否定し、信用創造は資金需要で決まるという。これは内生的貨幣供給説と呼ばれる理論である。

教科書的な説明では、中央銀行がマネタリーベースを増やすと、マネーストックはそれに信用乗数をかけた分だけ増える。つまり

 マネーストック=マネタリーベース×信用乗数

だから信用乗数が安定している短期では、マネーストックはマネタリーベースにほぼ比例して増えるはずだ。これに対してMMTによれば、マネーストックは資金需要で決まるので、マネタリーベースを増やしてもマネーストックは増えず、信用乗数(マネーストック/マネタリーベース)が下がるはずだ。これはデータで検証できる命題だが、どっちが正しいだろうか?

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信用乗数の変化(三井住友アセットマネジメント調べ)

この図で明らかなようにMMTが正しい。日銀がマネタリーベースを激増させた2013年以降も、マネーストックはあまり増えず、信用乗数が大幅に下がった。つまりマネーの量は資金需要で決まるので、日銀の量的緩和は無意味である。MMTはアベノミクスを否定しているのだ。

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