MMTはマクロ経済学的には新しい話ではないが、正しい点もある。ケルトンも日本で明言したように、ゼロ金利では量的緩和でマネーは増えないということだ。MMTは預金が「信用乗数」で増えて信用創造が行なわれるという通説を否定し、信用創造は資金需要で決まるという。これは内生的貨幣供給説と呼ばれる理論である。

教科書的な説明では、中央銀行がマネタリーベースを増やすと、マネーストックはそれに信用乗数をかけた分だけ増える。つまり

 マネーストック=マネタリーベース×信用乗数

だから信用乗数が安定している短期では、マネーストックはマネタリーベースにほぼ比例して増えるはずだ。これに対してMMTによれば、マネーストックは資金需要で決まるので、マネタリーベースを増やしてもマネーストックは増えず、信用乗数(マネーストック/マネタリーベース)が下がるはずだ。これはデータで検証できる命題だが、どっちが正しいだろうか?

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信用乗数の変化(三井住友アセットマネジメント調べ)

この図で明らかなようにMMTが正しい。日銀がマネタリーベースを激増させた2013年以降も、マネーストックはあまり増えず、信用乗数が大幅に下がった。つまりマネーの量は資金需要で決まるので、日銀の量的緩和は無意味である。MMTはアベノミクスを否定しているのだ。
上の図でもわかるように、信用乗数は普通は安定しており、マネタリーベースとマネーストックの増加率はほぼパラレルである。金利が高かった1970年代には、マネタリーベースを過大に供給したために激しいインフレになった。これが1973年の第1次石油危機のときの「狂乱物価」の原因であり、1979年の第2次石油危機のときは図のように物価はそれほど上がらなかった。



これは日銀がマネタリーベースを増減したためではない。1971年から円高を防ぐ調整インフレのために、意識的に公定歩合を抑制したためだ。これにこりて第2次石油危機のときは、機動的に公定歩合を上げてインフレを防いだ。

同じように円高を防ぐために公定歩合を抑制したのが、1980年代後半の不動産バブルの原因だったが、このときはフローの物価ではなく資産価格が上がったため対応が遅れた。金融実務としても、日銀の見ているのは金利であってマネタリーベースではなく、日銀がマネーストックを増やすことはできない。

この点ではMMTがリフレ派を批判するのは正しいが、それを財政に適用するのはいただけない。銀行が企業に貸し出しした瞬間に預金が生まれるように、日銀が国債を買った瞬間に政府の日銀当座預金が発生するので、いくらでも財政赤字が出せるというのがMMTの発想だが、現実には財政赤字が増えるとインフレが起こる。

これは普通は金利で調節するが、MMTには金利の概念がない。このため雇用保障(JGP)と呼ばれる失業対策事業や増税で調節することになっているが、税はそんなに簡単に増減できるものではない。MMTは「ゼロ金利の理論」としては使えるが、金利で経済を調節することを考えていないので、金融理論ではありえないのだ。