大分断:格差と停滞を生んだ「現状満足階級」の実像
労働者が転職しなくなり、起業が減り、大企業のシェアが増えて経済に活気がなくなっている――これは日本のことではない。アメリカの現状である。州を超えた移住は50年前の半分になり、起業率も40%減り、生産性上昇率は1%を下回った。

その原因はアメリカ資本主義の成長期が終わって成熟段階に入り、「現状に満足する階級」が増えてきたからだ(原題は"The Complacent Class")。起業や新規参入が減る一方で企業の集中が進み、4割の業界で上位4社のシェアが半分を超えるようになった。

つまり日本で起こっている長期停滞は、世界的な現象なのだ。今週のVOXにも、次の図のようなデータが紹介されている。企業の新規参入は、1980年代の14%から2010年には9%に減った。大企業の利潤率は上がっているが企業間の格差が拡大し、労働者の格差も拡大している。労働者の所得の中央値は、1969年より低い。

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アメリカの大企業(S&P500社)の資産のうち、知的財産権やブランドなどの無形資産の占める比率は、1975年には18%だったが、今は80%になっている。その最大の原因は企業が「情報化」したからというより、弁護士の守るレントが大きくなったことだろう。

規制も多くなり、免許業種で働く人の比率は1950年代の5%から2008年には29%に上昇した。州ごとに免許が異なると、起業や労働移動も困難になる。雇用はメキシコや中国に「輸出」されたが、その不安定性も輸出されたのだ。

これは逆にいうと、アメリカ政府が「大きな政府」になったことを意味する。国民一人当たりの公的医療のコストは、ヨーロッパより多い。その大きな原因は医療保険制度の非効率性だが、社会保障全体でもOECD諸国で2番目に多い。軍事費を含めると、アメリカ政府の「安全」にかけるコストは先進国でトップである。

著者はリバタリアンなので、こうしたアメリカの現状に批判的だが、この傾向が終わる見込みはない。彼はアメリカがさらに停滞して人々が目覚める「大いなるリセット」に望みをつなぐが、残念ながらそれも望み薄である。アメリカより停滞している国はたくさんあるからだ。