ブランシャールの提言で驚くのは、日本の影の金利がマイナス8.3%という推定だ。これは量的緩和と同じ効果を金利で出すには政策金利がどれぐらい下がる必要があるかという計算だが、マイナス8%はいくら何でも極端ではないかと思って、元のNZ中央銀行のデータを調べてみると、これほど大きなマイナスは日本だけだ。

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日米欧の「影の金利」

図のようにアメリカでもEUでも一時はマイナスになったが、アメリカは最近はプラスに戻っている(現実の政策金利とほぼ同じ)。ユーロ圏も一時は日本よりひどかったが、最近はマイナス4%程度に戻っている。ところが日本だけは、安倍政権で大きく影の金利が下がったまま戻らない。量的緩和が激しかったため、それと同じ効果を出す金利が下がったわけだ。

理論的には日銀当座預金の金利を大幅なマイナスにすればいいが、これは銀行の経営を悪化させ、逆効果になるおそれが強い。Eggertssonなどの実証分析によると、スウェーデン中央銀行のマイナス0.5%の政策金利で貸出金利は上がり、GDPは下がったという。それは銀行を袋小路に追い詰めるだけなのだ。

銀行の「中抜き」は起こるのか

もう一つ残された最後の手段は、日銀の貸し出し金利をマイナスにする、つまり銀行に貸出補助金を出すことだ。これはまだ世界のどこの中央銀行もやったことがないが、銀行経営をかえって悪化させるおそれが強い。銀行の企業に対する貸し出し金利も下げなければならないからだ。

しかし今のマイナス金利が続いても、金融仲介業に生きる道はない。それは資金需要に対して資金供給が絶対的に不足していた成長期の産業であり、資本過剰になってカード会社が消費者(債務者)にポイント還元して「カネを借りてください」と頼む時代には存続しえないビジネスなのだ。

では銀行の生きる道はどこにあるのだろうか。一つは投資銀行のような企業買収などのホールセールの仲介業だが、これで収益を上げられる銀行は少ない。もう一つはリテールの決済サービスだが、これも決済手数料でもうけることは困難になるだろう。残るのはカードでマイナス金利を払って、購買履歴などの個人情報を「買う」ことだ。

つまり銀行は、金融仲介業から決済サービス業に変わるしかない。いま決済アプリに多くの企業が参入して多額のボーナスをつけているのは、そのリーダーになろうということだろうが、それが今までの銀行のようにおいしいビジネスかどうかはわからない。預金取扱金融機関は規制と独占レントで守られているが、2次的な「ノンバンク」には自由に参入できるからだ。

こういう中抜き(disintermediation)は、1980年代から起こるといわれてきたが、日本では起こらなかった。リテールで銀行に対抗できる強力なライバルが出てこなかったからだ。しかし今は、アマゾンやグーグルなどのインターネット企業が流通や広告を中抜きし始めた。

暗号通貨の時代には、単なる決済手段を提供するだけの企業が、それほど大きな収益を上げるとは考えにくい。理論的には、日銀が暗号通貨を発行して全国民がそれを使ってもいいのだ。未来の銀行は、暗号通貨の取引所になるのかもしれない。