脱属国論
戦後日本の国体を決めたのは憲法ではなく、日米地位協定である。それはアメリカの世界的覇権を守るために日本の司法権を制限し、首都の上空をアメリカの管制権のもとに置く異常な協定だ。これは行政上の取り決めなので国会の同意は必要ないとされ、その骨格だけを書いた日米安保条約が結ばれた。

まだアメリカの占領統治下にあった日本がこういう「属国」状態の協定を結んだのはやむをえないが、それを戦後ずっと放置し、補強してきたのは保守勢力だ。自民党は憲法改正を掲げて結成されたが、岸信介が安保改正に殉じたあと、保守本流は安保条約にも地位協定にも手をつけなくなった。

田原氏によると安倍首相は地位協定の改正に意欲を示したというが、井上氏は「それは甘い」という。安倍改憲案にみられるのは「戦後レジーム」の矛盾を是正するという自分のテーマから逃げ、公明党に迎合して政権を維持する選挙対策であり、戦後レジームの根幹になっている日米関係に手をつける気はないだろうと井上氏は批判するが、それは安倍首相の一貫した戦略ではないか。

戦争や災害のようなテールリスクに備えることは政府のコア機能だが、政治的コストは高い。厄介な軍事的リスクはアメリカに丸投げし、日本はその属国として気楽にやっていく自民党ハト派はそれなりに合理的だった。安倍首相のゼロ金利に賭ける経済政策も、平時には高いリターンをもたらす。政治的リスクがリターンよりはるかに大きい地位協定に、彼が手をつけるとは思えない。

続きは5月6日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。