超高齢化する日本で、世代間格差は大きな問題である。増税を先送りすると財政赤字が増え、そのコストは将来世代の増税になるので、現在世代は子孫にツケを回しているとよくいわれるが、この問題は二つにわけて考える必要がある。

第一は所得分配の問題である。賦課方式の社会保障は、定義によって世代間の所得移転なので、高齢化で現役世代の負担が増えることは避けられないが、これは財政赤字の問題ではない。日本の社会保障は老人の既得権を過剰に認めているので、今の60歳以下には超過負担が発生するが、これは負担の歪みである。この赤字を国債で埋めても、借り換えできれば(政府債務は増えるが)増税しなくてもいい。

第二は資源配分の問題である。これは理論的にはむずかしいが、厳密な証明はブランシャールの論文を読んでいただくとして、ごく大ざっぱにいうと、財政赤字で民間投資がクラウディングアウトされるが、金利(資本収益率)が成長率より低いときは、そのコストは小さい。資本過剰で投資が足りない動学的に非効率な状態では、政府が需要不足を埋めたほうがいいのだ。

今のゼロ金利の状況では財政赤字のコストはゼロなので、政府が借金して需要を作り出し、それをゼロ金利で借り換えれば、現在世代は得をし、将来世代も成長率が上がって利益を得る。つまりゼロ金利がずっと続くとすれば、財政赤字ですべての世代が利益を得るフリーランチがあるのだ。問題はそれがいつまで続くのかということである。
kin

新発10年物国債の利回り(日本相互証券)

図のように、少なくともここ10年は長期金利は低下を続けており、名目成長率を1%以上も下回っている。その原因が日銀の「異次元緩和」だと思う人が多いが、それは逆だ。図をよく見るとわかるように、黒田総裁の就任した2013年初めには、金利は0.3%ポイントほど上がっている。

これは当然だ。もし「2年でインフレ率2%にする」という目標が実現したら、名目金利は少なくとも2%に上がらないといけない。最初は債券市場も、そう思って金利が上がったが、その後は下がり続けた。2015年後半には下がりすぎてマイナスになり、翌年には日銀当座預金の金利をマイナスにするという対応を迫られた。

2018年には資産の買い入れを毎年80兆円から30兆円に減らしたのに、金利はマイナスになり、地方金融機関が経営危機に瀕している。これ以上マイナス金利が拡大すると、黒田総裁が言及して話題になったリバーサル・レート(金利が下がると銀行の経営が悪化して景気が悪くなる効果)の問題が大きくなる。

つまり6年前の「金利の上がる国債を日銀が買い支える」という状況から「下がりすぎる金利を日銀がバランスシートを縮小して調節する」という状況に変わりつつあるのだ。この状況で金利が反転上昇するリスクは、市場の誰も考えていない。

では長期で考えると、どうだろうか。2018年度末の国と地方の債務残高は1107兆円。これを家計金融資産1829兆円をすべて食い尽くすと考えると、720兆円の余裕がある。国債を今年と同じく毎年30兆円発行すると考えると、あと24年はもつ計算だ。純債務で考えるともっと余裕があり、対外純資産300兆円も食いつぶすとさらに延命できる。

つまり算術的には、日本の財政が破綻するリスクはきわめて低い。もちろん何かのショックで金利が急上昇するとか円が暴落するリスクはゼロではないが、財政赤字で成長を支えるメリットとの費用対効果である。破綻は絶対に起こらないと思い込む「安全神話」は有害だが、破綻のリスクをゼロにしようとして緊縮する「ゼロリスク」も有害である。