世界経済 大いなる収斂 ITがもたらす新次元のグローバリゼーション
先進国の長期停滞の背景にあるのは、グローバルな産業構造の変化である。歴史の大部分で世界の最先進国は中国だったが、ヨーロッパの植民地支配で19世紀以降の大分岐が始まり、ヨーロッパとアジアの格差が拡大した。それが1990年以降の大収斂で逆転し始めたのだ。

大分岐をもたらしたのは、第1のアンバンドリングだった。ローカルに閉じていた伝統社会がヨーロッパ諸国の植民地支配で統合され、貿易が始まった。商品はローカルな社会からアンバンドルされて国際的に流通する一方、情報は国内に閉じていたので、東西の格差が広がった。

それに対して大収斂をもたらしたのは、第2のアンバンドリングだった。コンピュータや通信の発達によってグローバルな情報の流通コストが下がり、高技術国から技術をアンバンドルして低賃金国に移転する水平分業が急速に進んだ。これによってアジアが豊かになり、1820年から上がっていた先進国のGDPシェアが、1990年から下がり始めた。

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世界のGDPに占める先進国(G7)のシェア
このようなグローバル化は新興国にとっては間違いなくいいことだが、先進国にとっては必ずしもそうではない。先進国から生産拠点が移動して雇用が増え、新興国の賃金は上がるので、グローバルな所得格差は縮小するが、先進国の労働者は新興国との競争にさらされ、国内の格差は拡大する可能性がある。

企業間の格差も拡大する。これまで各国の中で起こっていた独占がグローバルな規模で起こると、世界市場を独占するGAFAのような巨大企業と、それ以外の企業の格差が拡大するのだ。これ自体も資本主義のしくみとしては避けられないが、格差拡大はさまざまな紛争を引き起こすので、所得分配が各国の最大の問題になる。

では第3のアンバンドリングは何だろうか。これまでの前例を延長して考えると、今はまだ先進国の中でやっている知的労働や対面サービスを、国境を超えてコンピュータが行う可能性がある。つまり労働サービスが労働者から切り離されるのだ。それは第2のアンバンドリングの延長だが、機械学習の技術進歩によって劇的に進むかもしれない。