Identity: The Demand for Dignity and the Politics of Resentment (English Edition)
2010年代の政治の特徴はidentityが前面に出てきたことだが、これは日本人にはわかりにくい。そもそも日本語には、これに対応する言葉さえない。1万年以上前から、地理的にも文化的にも自然なアイデンティティをもつ日本人は「私たちは何者か」と問う必要もないからだ。

しかし世界では、冷戦期に人々を隔てていたイデオロギーの壁が1990年代に崩壊し、企業や移民がグローバルに移動する中で、「私たちは何者か」という問いが政治の最大のテーマになっている。トランプ大統領の国境の壁から、EU離脱するイギリス国民、さらに韓国の「徴用工」問題に至るまで、ポピュリズムの共通点は外部に敵をつくるアイデンティティ政治である。

本書は1989年に「冷戦とともに歴史は終わった」と宣告したフクヤマが、トランプ大統領の登場に衝撃を受けて「歴史の終わった後の歴史」を書いたものだ。イデオロギーが終わっても国家の対立は終わらないが、その対立軸はナショナリズムではない。グローバル化の中で国民国家のアイデンティティも自明ではなくなったので、いま対立軸になるのは民族意識(peoplehood)の物語だという。

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