生産性とは何か: 日本経済の活力を問いなおす (ちくま新書)
日本経済の停滞の原因が人口(特に生産年齢人口)の減少にあることは政治家も認識しているが、それを解決することはむずかしい。外国人労働者を入れて労働人口を増やす安倍政権の政策は、問題を解決するより作り出すおそれが強い。もう一つの考え方は、労働人口が減っても労働生産性を高めればいいという議論だが、具体的に何をするかが問題だ。

生産性を考える場合、製造業とサービス業を区別することが重要だ。グローバルに立地できて労働節約的な技術進歩の速い製造業に比べて、ローカルな対人サービスに依存するサービス業の労働生産性はどこの国でも低く、製造業の比率が下がるにつれて労働生産性が下がる「ボーモル病」がみられる。

日本はこの格差が特に大きく、いつまでも縮まらないのが特徴だ。次の図は日米の労働生産性格差(生産性本部調べ)で、アメリカを100すると日本の製造業の生産性は69.7だが、サービス業は49.9。こういう「二重構造」の硬直性は高度成長期から指摘されていたが、1990年代以降の長期不況で拡大し、2000年代に固定化した。

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これはアメリカを100とする指数で日本の労働生産性をみたものだが、機械や自動車(輸送機械)など製造業ではアメリカより高いのに対して、金融・流通・飲食などのサービス業ではアメリカの半分以下である。この一つの原因は、免許業種で参入規制が強く、補助金などによる保護が手厚いため、企業の退出が進まないことだろう。

ただ保護が強くても収益が上がらなければ、中小企業は退出するはずだ。1998年以降の不良債権処理では、そういう企業の淘汰が進んだが、これに対して中小企業が自衛策として貯蓄を増やし、企業が貯蓄超過になった。これによって低収益になった中小企業が賃金を抑え、その結果、労働生産性が低下する悪循環になっている。

アベノミクスは過剰な資金を供給して中小企業を温存し、生産性の向上を阻害する結果になった。それが低賃金とデフレの続く原因である。本書もいうように長期的な解決策は生産性の低い企業から高い企業へ人材と資金が移動する新陳代謝しかないが、安倍政権では経産省が中枢を握って産業政策で新陳代謝を阻害している。

二重構造は高度成長期のレガシーで、90年代以降のグローバル化でなくなるはずだったが、古い経営者と政治家がその構造を守っている。経産省は資本市場を嫌い、厚労省は労働市場を嫌う。それが人で不足になっても賃金の上がらない原因だ。こういう古い構造を変えない限り、人工知能やロボットで生産性が向上するというのはSFである。