高坂正堯―戦後日本と現実主義 (中公新書)
今の学生が高坂正堯の本を読んでも、あまりおもしろくないだろう。たとえば彼の代表作といわれる『国際政治』の「力の体系」として国際政治をとらえる現実主義は、モーゲンソーやキッシンジャーとあまり変わらない。その意味で普遍性はあるのだが、独創性はない。

だが論壇では、高坂は孤独だった。それは彼が京大出身だったことと無関係ではないだろう。1962年に彼はデビュー作「現実主義者の平和論」で坂本義和の中立論を批判したが、坂本は反論せず、議論は噛み合わなかった。東大法学部を中心とする論壇の主流は非武装・非同盟の理想主義であり、彼らにとって現実主義とは既成事実に屈服する保守政治だった。

こういう論壇の空気を読まないで「日米同盟なしで日本は守れない」という常識を説くことが、高坂の独創性だった。彼には「御用学者」のイメージがつきまとい、マスコミでは数少ない保守派の代表として使われるようになったが、その後継者はいない。論壇はなくなったが、今もマスコミの主流は彼の批判した一国平和主義である。

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