友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学
近代社会では個人主義が当たり前で、「集団主義」というのは悪い意味に使われるが、人類の歴史の大部分だった狩猟採集社会では、先祖は数十人の集団で移動しながら生きてきた。集団が滅びると個体も滅びるので、脳には集団主義の感情が遺伝的に組み込まれている。

霊長類が進化で生き残った原因は、大きな集団をつくる脳が発達したことだが、中でも最大の集団をつくるのが人類だ。集団の自然な大きさは脳の新皮質の大きさで決まり、人類の場合は150人だ、というのが「ダンバー数」という著者の説である。これは狩猟採集社会の話なので、現代社会にはもっと大きく複雑な集団があるが、個人が顔を覚えられるのは150人ぐらいが限界だという。

人類の大きな脳は敵と味方を識別し、集団をつくって身を守るために発達したと考えられている。類人猿は「毛づくろい」で集団をつくるが、人類は言葉で集団をつくる。だから猿がしょっちゅう毛づくろいをするように、人間はいつも無意味な噂話をしている。その目的は話の中身ではなく、互いが仲間だと確認することなのだ。

150人を超える集団をつくる脳

しかし類人猿には言語に近いものを教え込むことはできるが、彼らが言語で互いにコミュニケーションすることはない。言語によって互いに協力することもできない。それはもっと根源的な心の理論(Theory of Mind)が欠けているからだ。心の理論というのは科学的な意味での理論ではなく、他人の心を読んで推測する機能で、人間でも4歳児ぐらいで発生するといわれる。

チンパンジーに原始的な言語を教えても、命令は聞くが、他の個体の気持ちを推測することはない。道徳のようなものもない。親と子を結びつけるのは遺伝子を共有する血縁度(relatedness)だから、子供を守るために「利他的」な行動をすることはあるが、血縁を超えて協力することはない。

人類はその遺伝的な限界を超え、宗教的な感情を共有して、150人を超える集団を維持してきた。著者はその原因が、神経伝達物質エンドルフィンだという。宗教や音楽で熱狂したときや笑ったとき、脳内ではエンドルフィンが分泌されて「ハイ」な状態になる。

このように自然な集団の大きさを超える大きな脳によって、人間は大きな集団をつくった。それを結びつける絆は、遺伝的に固定されていないので不安定だが、柔軟で拡張性に富む。それが人類が70億人にも増えた最大の原因である。