2018年10月臨時増刊号 総特集◎マルクス・ガブリエル ―新しい実在論―
マルクス・ガブリエルの『なぜ世界は存在しないのか』を「新実在論」と呼ぶのはミスリーディング(彼は自分ではそう呼んでいない)だが、かりにそう呼ぶとすると、それはマルチバース(多宇宙)理論に似ている。

これは私が何度か指摘したことだが、彼自身もそう思っているようだ。今年6月に来日したとき、彼が対談の相手に選んだのは、『マルチバース宇宙論入門』の著者、野村泰紀氏だった。最初に野村氏がマルチバース理論を説明し、ガブリエルはそれに「哲学的にとても共感します」という。

ただガブリエルが野村氏の話を理解していないので、話が噛み合わない。野村氏の話は、ガブリエルの批判する「自然主義」(物理的実在を絶対化する思想)である。宇宙は無数にあるが、シュレーディンガー方程式で記述できる「この宇宙」は一つしかない。マルチバースはガブリエルの考えているような主観的な「領域」ではなく、意識から独立に実在する宇宙である。

もしマルチバースの存在が証明されると、それはこの宇宙が多くの可能な宇宙の中から進化してきたことを示すが、なぜ人間がこの宇宙にいるのかはわからない。それは対談でも野村氏が「数学がなぜこんなにパワフルなのかわからない」といっている謎で、新実在論もそれを解くことはできない。

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