脱ポピュリズム国家 改革を先送りしない真の経済成長戦略へ
日本の財政危機の本質は、社会保障の危機である。ゼロ金利が続く限りハイパーインフレのような形で「財政破綻」することは考えられないが、現役世代から高齢者への所得移転は確実に増える。特に日本で世代間の不公平がひどくなるのは、日本の社会保障の9割が年金・医療などの社会保険で占められているからだ(ヨーロッパは3割)。

社会保障の本来の目的は貧しい人に最低所得を保障することだから、生活保護のような所得再分配でいいのだが、これは受益者が限られるので政治的には人気がない。社会保険はすべての人が受益者になるので、ポピュリズムに結びつきやすい。その結果、大富豪でも年金を受給できる「老人国家」になった。

年金は2030年代前半に年金基金が枯渇するので、支給開始年齢の引き上げは避けられないが、医療と介護は複雑だ。これ以上のコスト増を防ぐには、基礎的な生活保障と高度サービスをわけるしかない。

年金以外はバウチャーで

たとえば高度医療を受けたい人も、今は制約のある保険診療か高価な自由診療かの選択を迫られる。両方を組み合わせる混合診療には、医師会が反対している。こういう規制を緩和して、所得の高い人は高いサービスを受けられる「福祉サービスの市場」を創造する必要がある。

これは保育も同じである。「待機児童」は、市場経済では起こりえない。これは保育サービスが補助金漬けで社会主義になっていることが最大の原因だ。その供給も社会福祉法人に独占され、株式会社が参入できない。

社会保険は本来の目的である所得保障に限定し、これから増える医療・介護・保育などのサービスには企業が参入し、それをバウチャーのような直接給付で政府が支援すればいいのだ。

こういう議論をすると、すぐ「格差が拡大する」という話になるが、たとえば高級レストランで食事をしたい人も牛丼でいい人も、牛丼しか食えないのが今の健康保険である。高度な医療サービスを求めて高い価格を払ってもいい人は、それなりの対価を払えばいい。

特に老人福祉はこれから最大の成長産業である。それによって創出される需要で日本経済を成長させ、GDPを高めないと、みんなが平等に貧しくなるだけだ。政治家も厚労省も市場メカニズムをいやがるが、そのうち負担増が耐えられなくなり、否応なくそういう議論が出てくるだろう。