移民に消極的だった安倍政権が、新しい在留資格による外国人労働者の受け入れ拡大に舵を切った背景には、深刻な人手不足がある。経済界から自民党に突き上げがあり、参議院選挙をにらんで来年4月スタートという急な話になったのだろう。

人手不足の原因は複雑だが、ある意味では明らかだ。賃金が低すぎるからである。労働市場で需給が一致する賃金を経営者が払わないから、いつまでも超過需要が続くのだ。こういう現象は地方の中小企業に片寄っている。その解決策も明らかだ。需給が一致するまで賃金を上げれば、中国やベトナムから募集しなくても、国内から労働者が集まるだろう。

逆にいうと賃上げできないのは、適正な水準まで賃上げしたら利益が出ないからで、それは中小企業の生産性が低いからだ、というのがアトキンソンの見立てである。日本の企業の平均社員数は、高度成長期に半減した。1975~95年に企業は170万社増えたが、その88%が社員10人以下の中小企業だった。
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これは昔からいわれる日本経済の「二重構造」で、最近は製造業などのG型企業とサービス業などのL型企業といったほうがいいかもしれない。その原因は明らかで、製造業では国際競争があるが、サービス業ではないからだ。国内では競争があるが、それは生産性が上がらないので、低賃金・長時間労働の競争になる。

こういう企業を整理する上で必要なのは「出口戦略」である。これは日銀とは違い、会社経営から撤退する戦略だ。後継者がいなくて、廃業する中小企業が増えている。こういう企業が退出するしくみが資本市場だが、安倍政権の経済政策にはまったく出てこない。その司令塔が、資本主義のきらいな経産省だからである。

それは政治的にも困難だ。日本の企業の99.7%は中小企業なので、経営者の頭数では中小企業が圧倒的に多い。自民党の後援会の中核も中小企業の経営者が多く、定数配分も地方に片寄っているので、今回の新在留資格のような方針が出てくるのだろう。

しかしJBpressにも書いたように、移民は問題の解決にはならない。中小企業の整理は避けられない。それを移民で埋めるのは、田中角栄がバラマキ公共事業で地方を延命したのと同じ「人材のバラマキ」だ。都市への人口集中が止まると、成長率が低下する。まず労働市場・資本市場を機能させることが第一だ。