これはもっともな疑問だが、教科書的なマクロ経済学(DSGE)には「物価上昇が望ましい」という理論は存在しない。日銀の黒田総裁も「インフレ目標2%がグローバル・スタンダードだ」というだけで、その根拠は説明したことがない。それが望ましいのは、次のような「異常事態」が起こっている場合だ。

 1.名目賃金の下方硬直性が強い
 2.自然利子率がマイナスになっている
 3.コーディネーションの失敗が起こっている

1は初等マクロ経済学の教科書にも書いてあるが、名目賃金が労使交渉で決まる場合、賃下げは困難なので、インフレで実質賃金を下げ、労働生産性の上がった労働者だけ賃上げすることで調整がやりやすくなる。ただ定常的なインフレになると、労働者はそれを織り込んで賃上げを要求するので効果はなくなる。

2の自然利子率というのは経済に中立的な金利で、これがマイナスになっていると、名目金利がゼロ以下にならないときは「意図せざる金融引き締め」になる可能性がある。こういう場合はインフレで実質金利をマイナスにする意味があるが、最近の日銀の計測では、自然利子率は0.3%程度であり、マイナス金利も可能なので、インフレにする意味はない。

3がおそらく黒田総裁の想定しているケースで、「ピーターパンが空を飛べないと思うので飛べない」という均衡と「飛べると思うので飛べる」という複数均衡があるとき、だれもが空を飛べると期待すると飛べる可能性がある。問題は空を飛ぶ能力があるのかどうかである。

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