危機の政治学 カール・シュミット入門 (講談社選書メチエ)
カール・シュミットの思想は危機(例外状態)における決断の主体としての主権者を考える「危機の政治学」である。それはナチスのような危険な思想だが、今もシュミットが多くの人を魅惑するのは、国家の本質的な機能が危機管理、とりわけ戦争にあるからだろう。

戦争の続く近代ヨーロッパでできた主権国家は、戦争に勝つために最適化された暴力装置である。普通選挙のデモクラシーは多くの国民を主権者として戦争に動員するイデオロギー装置で、ナポレオンはそれによってドイツを支配した。この時代に目覚めたヘーゲルやフィヒテなどのナショナリズムが、シュミットの原点だった。

だが平時には、シュミットの思想は輝きを失う。国家のもう一つの機能は、生活の最低保障という退屈な仕事だ。それには危機も例外もなく、決断は必要ない。政府はルールにもとづいて課税し、それを再分配するだけだ。長く平和が続いて豊かになると、人々は政治に関心を失う。高度成長期以降の日本のように、人々は政治的決断を必要としなくなるのだ。

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