21世紀の長期停滞論: 日本の「実感なき景気回復」を探る (平凡社新書)
日本経済は世界のトップランナーである。1990年代に日本で始まったバブル崩壊もデフレも低成長も、2010年代のヨーロッパで繰り返されている。アメリカはバブル崩壊から立ち直ったが、成長率はリーマン・ショック前より低い。世界的な低金利でカネ余りなのに、インフレは起こらない。この謎については経済学者に、大きくわけて二つの意見がある。
  • 長期停滞:人口減少や高齢化や労働生産性の低下で、潜在成長率が低下した
  • 貯蓄過剰:新興国の経常収支が大幅な黒字になったが、それが国内貯蓄になって先進国に環流しないので、投資が不足している
統計的にはどちらを支持する証拠もあるので両方かもしれないが、結論は同じである:先進国が今後、景気対策で大きく成長することはできない。構造改革は必要だが、劇的な効果は期待できない。先進国に共通する問題は、社会保障の受益と負担の不公平だ。それは狭義の経済問題ではなく、政治の問題である。
サマーズが提唱して流行しているのは長期停滞説だが、これは自明ではない。経済の規模が拡大すると収穫逓減が起こって成長が鈍化するという話は、ケインズもハンセンも唱えたが、シュンペーターは「創造的破壊」で収穫逓減は克服できると主張した。戦後の成長率は戦前より高くなり、生産性は上がった。

貯蓄過剰説もあやしい。IMFによれば、図のように世界の貯蓄は投資より多く、グローバル・インバランス(経常収支の不均衡)は世界のGDPの1%近いが、それはここ10年の出来事で、不均衡は縮小している。この最大の原因は中国の貿易黒字だといわれるが、経常支は長期的には為替レートで調整されるので、このインバランスはそう長く続くとは考えられない。

GlobalImbalances

いずれにせよインフレ目標などの金融政策によって「デフレ」を脱却できないことは明らかで、この5年の日本経済は貴重な時間を浪費した。残ったのは巨額の政府債務だけだ。これ自体は急激な金利上昇が起こらなければ乗り切れる可能性もあるが、高齢化による社会保障(特に医療費)のインバランスを是正するタイミングを逃してしまった。

本書は最近のマクロ経済学による説明をコンパクトにまとめたサーベイとして便利だが、長期停滞の明快な解決策を出しているわけではない。それが日本の現実だろう。