また丸山トリビアで申し訳ないが、篠田英朗さんの記事でおもしろかったのは(本筋と関係ないが)「丸山眞男が、1969年の東大紛争で研究室を荒らされた後、全共闘の学生たちに『君たちのような暴挙はナチスも日本の軍国主義もやらなかった』と述べたことは、有名である」という話だ。これは「戦後民主主義の教祖」と全共闘運動の対立を象徴する発言として有名だが、彼の談話はもちろん、周囲の人の話でも確認できない。

唯一の出典は、吉本隆明が「収拾の論理」という1970年のエッセイで丸山が「君たちのような暴挙はナチスも日本の軍国主義もやらなかった。わたしは君たちを憎みはしない。ただ軽蔑するだけだ」と口走ったと書いたことだ。この出所は「新聞」だというが、それに近い報道は1969年1月19日付毎日新聞の次のような記事だ。
この日午後、封鎖が解けた法学部2階の研究室へ戻った丸山真男教授は、しばらく声も出せなかった。床にばらまかれ、泥に汚れた書籍や文献を一つ一つ拾いあげ、わが子をいつくしむように丹念に確かめながら「建物ならば再建できるが、研究成果は……。これを文化の破壊といわずして、何を文化の破壊というのだろうか」とつぶやいていた。
これは前日の安田講堂の封鎖解除のときの描写だと思われるが、彼が「ナチスや軍国主義」という発言をする状況ではなかった。このエピソードは、吉本の作り話である疑いが強い。

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