今週のシンポジウムで、TBSの人から「キー局もインターネット配信したいが、著作権法が障害になってできない」という質問があったので、調べてみて驚いた。いまだに著作権法は、ケーブルテレビなどによる地デジのIP再送信を実質的に禁止しているのだ。

著作権法では、通信の場合は個別に著作権の許諾が必要になるが、IPマルチキャストのような放送型サービスは「有線放送」なので包括契約でよい、というのが世界の常識だ。ところが文化庁は「IPマルチキャストは通信だ」と主張し、2006年に著作権法を改正して、IP再送信は放送ではなく自動公衆送信という通信の一種と規定した。CATVは包括契約なのに、IPマルチキャストだけは「送信可能化」なのだという。

これによってテレビのIP再送信はほぼ不可能になったが、地デジの再送信だけは例外として「専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として送信可能化を行うことができる」と放送エリアを県域に限定して認めた。このためTBSの放送は、東京都内にしか流せない。ネット配信すればキー局の番組は全国に流せるのに、配信業者は隣の県では見られないように1年ぐらいかけて県境でルータの工事をしなければならない。
国境のないインターネットに県境をつくる、こんな規制は世界で日本しかない。これは地デジがIPで全国に再送信されると、地方民放がキー局の番組を垂れ流して電波料(キー局からの補助金)を取っている県域放送のビジネスが崩れてしまうため、テレビ局が文化庁に政治的圧力をかけたからだ。

総務省に抵抗した文化庁

問題は電波行政ではない。総務省は、2001年に電気通信役務利用放送法で、IPマルチキャストを放送として扱うことを決めた。IP放送を普及させるために、通信衛星やブロードバンドなどのインフラを使って行なわれる映像配信サービスの規制をCATVより緩和したのだ。これに対して、文化庁は「IPマルチキャストは、著作権法では自動公衆送信だ」と主張したが、これは法律に書いてあるわけではなく、文化庁の解釈に過ぎない。

同じサービスが、役務利用放送法では「放送」扱いなのに、著作権法では「通信」だというのでは利用者が混乱するので、知的財産戦略本部や経産省でも「国会答弁で解釈を総務省に統一すべきだ」という意見が多かった。しかし文化庁は「著作権法の改正が必要だ」と譲らず、わざわざ文化審議会に諮問して時間稼ぎをはかり、改正が実現したのは、IP放送の規制緩和から5年後の2006年だった。

なぜ、こんな無意味な規制をしたのだろうか。文化庁の説明によれば、「IPマルチキャスト放送は、放送や有線放送と異なり、送信される番組が各家庭の受信機まで絶えず届いているものではなく、受信者がリクエストした番組が、受信者の元に個別に送信されるという仕組み」だからだという。

普通の人には、この文章の意味は理解できないだろう。日本以外にこんな区別をしている国はなく、IP放送はCATVと同じ扱いだ。欧米で「日本ではIP放送が放送じゃない」と言うと、「それはどういうことだ?」と質問され、どう説明してもわかってもらえない。

民放連はインターネットがきらいだ。それが地デジで袋小路に入った原因だが、いまだにNHKオンデマンドを止めて地上波テレビを守ろうとしている。今回の電波改革に強硬に反対したのも、民放連だった。欧米のテレビ局はインターネット企業になろうとしており、日本でもNHKは前向きだが、民放連はインターネットを拒否している。

これは日本の携帯電話メーカーが「ガラケー」を守って衰退したのと同じ「安楽死」の道である。それは企業にとっては悪くない選択かもしれないが、日本経済もゆるやかに衰退してゆく。それが日本の運命かもしれない。