6日の最高裁判決では、NHK受信料制度は合憲とされたが、契約が成立するためにはNHKが個々に民事訴訟を起こして確定判決をとる必要があるという判決になった。300万世帯以上の不払い者に対して、いつ受信機を設置したか日付を確認して訴訟を起こすことは不可能であり、この点ではNHKの敗訴ともいえるが、実務的には大した影響はないだろう。

奇妙なのは「契約の義務があるが支払い義務がない」という明らかな弱点をもつ放送法がなぜでき、戦後ずっとから続いてきたのかということだ。1950年に今の放送法ができるまでには、逓信省が何度も法案を作成し、それがGHQに却下されて作り直した。この経緯はよくわからなかったが、最近、逓信省の内部文書が分析され、解明されてきた。

村上聖一論文によると、1948年1月の法案では(戦前の制度を踏襲して)受信機を設置する際に逓信省への届け出が必要で、それによって受信料の支払い義務が発生するという規定だったが、GHQがこれを「受信契約は自由でなければならない」として拒否した。

中途半端な制度は政治家に便利

このため届け出制はなくなり、1949年3月案では「受信設備を設置した者は受信契約を締結したものとみなす」と規定された。政府の強制による国営放送という性格を弱めるため、NHKと視聴者の契約という擬制で受信料が徴収されることになり、支払い義務は削除された。

ところが法制局がこれを疑問視した。自発的な契約で受信するという制度だと、視聴者が契約を拒否したらどうするのか。そういう問題をなくすため、契約を義務づける変則的な規定になった。このとき支払い義務は削除されたままだった。

このため今も、NHKは個別に民事訴訟を起こさないと支払いを求めることができない。それは立法の過程で国の関与を弱めるためにできた規定だが、NHK経営陣にとっては厄介な問題なので、彼らは支払いを義務化する放送法改正を何度もさぐった。

だが政治家にとっては、今の中途半端な制度が意地悪しやすい。特にNHKの予算承認は全会一致という慣例なので、野党も拒否権をもっている。長谷部恭男氏などの進歩的文化人も反対し、義務化は実現しなかった。

受信料制度をやめてB-CASで「視聴料」にすべきだという議論も昔からあるが、NHKは減収を恐れて踏み切れない。民放連も、有料放送のライバルが出てくることを恐れて改正に反対する。自民党も認めないだろう。この状態では、日本の通信・放送は世界に取り残されるばかりだ。