和辻哲郎と昭和の悲劇 伝統精神の破壊に立ちはだかった知の巨人 (PHP新書)
左翼の心情倫理は平和憲法だが、右翼にも心情倫理がある。それが安倍首相の出発点だったと思われるが、彼も今ではあまり公然と語らない。著者はそれを語り継ぐ数少ない戦中世代だが、その中核にあるのは皇国史観である。「皇室のご先祖である初代の神武天皇」から説き起こす歴史は学問的には問題外だが、心情としては理解できる。

明治憲法は世界に誇るべき立憲主義であり、それが守られていれば、敗戦に至る失敗は起こらなかった。「幕府的」な大政翼賛会や軍部が、天皇に代表される「国民の総意」をゆがめたのだという。和辻哲郎は戦時中には時局迎合的な日本主義をとなえたが、戦後は「国民の総意は、いつも天皇において表現された」と象徴天皇制を擁護した。

著者はこの考え方を敷衍し、日本人を統合するのはGHQに押しつけられた国民主権ではなく、「皇統二千年」の伝統だという。国民の総意は選挙で集計できるものではなく、長い歴史の中で選ばれた伝統に表現されているという考え方は、バーク的な保守主義ともいえる。「万世一系」の天皇家が続いていること自体が正統性の根拠だという考え方が、日本人の自然な歴史意識だという。

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