きのうのVlogは軍事的常識のない人にはむずかしかったようだが、これからは一般国民も知っておくべき知識なので補足しておこう。非核三原則には法的根拠がないばかりではなく、日本政府が米軍に「持ち込むな」ということはできない。日米地位協定によって在日米軍はアメリカ政府の指揮下に置かれ、日本政府の支配には属さないからだ。

これは在外公館のような「治外法権」だが、その及ぶ範囲は基地の中だけではない。東京のまわりにある横田・厚木・横須賀基地の管制空域(横田空域)は、次の図のようにほぼ首都圏全域をおおい、旅客機はこの空域を避けて離着陸しなければならない。たとえば伊丹から羽田に飛ぶ飛行機は、房総半島に大きく迂回して南から着陸する。

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首都の上空が外国の管制空域になっているのは世界でも珍しいが、それを単に「対米従属」と批判してもしょうがない。こういう状態になった背景には、複雑な事情があるからだ。
1951年に締結された旧安保条約は、第1条でこう定めている。
平和条約及びこの条約の効力発生と同時に、アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒擾を鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる。
1951年の吉田=ダレス会談で、アメリカの目的は米軍を日本国内に配備することだったが、吉田はあっさり認めた。彼はこれを対米従属とは考えず、NATOのような集団安保体制として当然と考えたのだ。国会では「安保条約は飽くまで暫定的な措置であり、日本の防衛力が強化されて必要が消滅すれば、いつでも終了させうる」と説明した。

意外に難航したのは、日本が侵略される危険が迫った場合に、日米共同作戦を誰が指揮するかという問題だった。NATOではヨーロッパ各国は指揮権を放棄しているので、アメリカもそういう方式を想定していたが、日本側では日米の軍事力が違いすぎるので、アメリカの戦争に「巻き込まれる」ことを拒否できない、という批判が出てきた。

この問題は結局、行政協定24条で「日本区域において脅威が生じた場合には直ちに協議しなければならない」という曖昧な条文になった。当時は朝鮮戦争の最中に日本を極東の防衛線と位置づける緊急の必要があったため、両国とも暫定的に決めて、平和になって日本の経済力がついたら考え直すという認識だったのだ。

安保条約を改正して「核密約」ができた

実際、この条約は岸信介が見直した。さすがに「内乱及び騒擾を鎮圧する」治安出動の規定は主権侵害なので、60年の新条約では削除された。旧条約には米軍が日本を守るという規定は何もなかったが、新条約では第5条で
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
という、これまた曖昧な規定になったが、米軍と自衛隊の実質的な指揮権はアメリカがもつ。核兵器の配備もアメリカの極東戦略上の判断なので、条約には何も規定されていないが、日本国内に核を配備するときは事前協議するという密約が口頭で行われた。

この密約は外務省でも代々の事務次官に口頭で引き継ぎが行われたが、事前協議の対象になっていたのは「日本国内」であり、アメリカの施政権下にあった沖縄は対象外だった。沖縄には、1300発の核兵器が陸上配備されていた。

これは日米双方の了解事項だったが、沖縄返還のとき佐藤栄作は「核抜き・本土並み」による返還を求めた。米軍はそんな約束はできないので交渉は難航したが、1969年11月の日米首脳会談で「有事の核持ち込み」を認める密約に両国が署名して、沖縄返還を実現した。非核三原則は、こういう状態の中で1971年11月に行われた国会決議である。
政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守するとともに、沖縄返還時に適切なる手段をもって、核が沖縄に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである。
これは国会が政府に要請する形をとっているが、佐藤内閣はこれを閣議決定しなかった。当たり前である。彼が沖縄に核を持ち込む密約をしたのだから。これを理由に、1974年にノーベル平和賞が彼に授与されたのは、皮肉というしかない。

このように核はもとともと沖縄には配備されていたが、その後の米軍の戦略変更で、今は(沖縄を含む)日本国内にも第7艦隊にも配備されていない。むしろ必要に応じて、グアムの戦略爆撃機を日本の基地に配備するなどの柔軟性を高めるには、無意味な「持ち込ませず」の原則は廃止したほうがいい。それが北朝鮮に対して、正しいシグナルを送ることになる。