失敗の法則 日本人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という。これはプロ野球の野村克也元監督の言葉として知られているが、もとは江戸時代の大名、松浦静山の剣術書である。勝つときは偶然勝つこともあるが、負けるときは必ず理由があるという意味だ。
 
ビジネススクールの授業やビジネス本には「不思議の勝ち」を説明する結果論が多い。たとえばコイン投げのギャンブルで、あなたが表だけに賭けて30回続けて勝つ確率は10億分の1だが、そのとき「コイン投げで勝つ秘訣は何ですか?」ときかれたら、あなたは「表に賭けることです」と答えるだろう。
 
こういう錯覚を「生存バイアス」と呼ぶ。どんなゲームにも(偶然で)勝ち続ける人は少数いるので、その原因を結果論で説明しても、大して役には立たない。それに対して、負ける人は多いので、その原因を分析することは意味がある。一つ一つはつまらない失敗でも、集めると法則性が見えてくる。
日本経済は「長期停滞」に入ったといわれ、その原因は「生産性が低いからだ」とか「イノベーションが足りないからだ」といわれる。それは一般論としては正しいが、具体的に何をするのだろうか。技術革新という意味のイノベーションは、日本では飽和しており、IT(情報技術)の分野では勝負がついてしまった。かつて世界のナンバーワンといわれた日本の製造業は、すっかり勢いをなくしてしまった
 
それは不可抗力だったともいえる。日本の高度成長の成功は、いろいろな要因の重なった「不思議の勝ち」であり、同じ環境が再現されることはない。しかしバブル崩壊から20年以上たっても、日本人は新しい環境に適応できず、同じ間違いを繰り返している。戦前にさかのぼってみると、日本軍にも共通の「失敗の法則」があるようにみえる。
 
その原因は、日本人が共有している「暗黙知」が時代遅れになってしまったためではないか、というのが私の仮説である。この言葉は日本では職人芸のような「技」で、日本の製造業の得意な「すり合わせ」の世界だと誤解されているが、ポランニーのいう暗黙知はマッハの影響を受けた認識論的な概念で、「人々の潜在的に共有している暗黙の前提」という意味だ(『暗黙知の次元』)。革新すべきものがあるとすれば、それは技術ではなく、この暗黙知だと思う。
 
日本人の失敗を論じた本としては、1984年の『失敗の本質』(野中郁次郎ほか著)が有名だが、これは今となっては不満が残る。個々の作戦の分析は的確に行われているが、その抽象化が不十分で、繰り返し起こる同じ失敗のパターンの原因がよくわからないのだ。本書は日本人の失敗から「法則」を抽象化し、具体的な事例に則して検証してみようという試みである。

第1法則 現場が強いリーダーを許さない
第2法則 部分が全体を決める
第3法則 非効率を残業でカバーする
第4法則 「空気」は法律を超える
第5法則 企業戦略は出世競争で決まる
第6法則 サンクコストを無視できない
第7法則 小さくもうけて大きく損する
第8法則 「軽いみこし」は危機に弱い