今年の流行語大賞は「面従腹背」だと思うが、この言葉は意外に重要なインプリケーションをもっている。サラリーマンなら誰でも面従腹背の経験があると思うが、それが大きなストレスになるのは、彼らが役所や会社をやめられないからだ。こういう状況は、江戸時代からあった。

「武士道」という言葉は新渡戸稲造が捏造したものだが、それを江戸時代に使った数少ない本が『葉隠』である。これは「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という言葉で有名だが、死を美化する本ではなく、むしろ日常的な武士の心がけを書いたものだ。特におもしろいのは、ここに面従腹背のエートスがみられることだ。

『葉隠』は主君への絶対服従を説いているようにみえるが、笠谷和比古氏も指摘するように、そこで山本常朝が忠誠の対象としているのは藩主ではない。主君の政治が間違っている場合には「主君の御心入を直し、御国家を固め申すが大忠節」という言葉で忠誠の対象になっているのは、個人としての藩主ではなく「国家」(鍋島藩)なのだ。

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