サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
原著は全世界で200万部も売れたベストセラー。中身は通説のおさらいだが、従来の常識と違うのは、人類を猿から区別するのは言語ではないということだ。食物や危険を伝える記号は、猿ばかりでなくミツバチやアリも持っている。人間の特徴は、トマセロも指摘するように、意図を共有して協力することだ。

類人猿は他の個体の指示する記号に従うことはできるが、共同作業ができない。社会性昆虫は共同作業はできるが、遺伝的に固定された記号しか使えない。それに対して人類は大きな脳で複雑な文を構成し、共同主観的(intersubjective)な神話を共有する文化によって新しい環境に適応できたのだ。

人類のもう一つの特徴は、外界を物体と見ることだ。昆虫の外界に対する感覚は、光や熱やにおいが連続的に分布しているが、人類は解像度の高いレンズで周囲の環境を「不連続な物体の集まり」として知覚する。廣松渉の言葉でいうと、世界を物象化して見ることで共同作業が可能になったのだ。フッサール以降の哲学者が観念的に語ってきた問題を、人類学が実証しつつある。

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