古代ユダヤ教 (上) (岩波文庫)
歴史上もっとも豊かになった時代にトランプのような不満分子の代表が大統領になり、「イスラム国」などのテロが横行するのは逆説的だが、古来こうした現象は珍しくない。キリスト教やイスラム教のようなセム系一神教は弱者のルサンチマンに迎合するポピュリズムであり、その元祖がユダヤ教だ。それを最初に指摘したのはニーチェだが、その影響を受けて書かれた『古代ユダヤ教』は、ウェーバーの代表作である。

「第二イザヤ」の預言のコアは、苦難の神義論である。これは人が苦難にあったとき、それを「神罰」と考える思想だ。罪が大きいほど苛酷な罰を受け、それを償うことによって天国で救済される――という「第二イザヤ」のイノベーションはパウロに受け継がれ、十字架の神学になった。この不合理な教義には何の証拠もないが、不合理であるがゆえに信じる者だけが天国に行ける。

キリスト教は不幸を食い物にする宗教だから、戦争や疫病で多くの人が死ぬ時代に流行する。それは宗教戦争を起こす一方で、教会は病院や避難所になって「マッチポンプ」で信者を増やし、世界で20億人以上の信者を獲得した。キリスト教は弱者へのマーケティングで、歴史上もっとも成功したポピュリズムともいえよう。

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