今年は安倍政権の経済政策が完全に行き詰まり、「インフレ税」が出てくる可能性がある。もちろん露骨にいうと反発をまねくので、出てくるのは政府と日銀の協調だろう。これ自体は正しい。国債の4割、ETFの6割を日銀が保有する日本経済は、実質的に「国有化」されているので、日銀のやっている財政政策をルール化する必要がある。

日銀の出口戦略にも、政府の協力が必要だ。黒田総裁は「政府が財政規律を守ることが重要だ」というが、これは逆である。インフレ税で政府債務を減らすには、政府は財政規律を守らないというコミットメントが必要だ、というのがSimsの提言である。
What is required is that fiscal policy be seen as aimed at increasing the inflation rate, with monetary and fiscal policy coordinated on this objective. In Japan, this might be achieved by explicitly linking planned future increases in the consumption tax to hitting and maintaining the inflation target.
「消費税の増税とインフレ目標を明示的にリンクする」というのは、たとえば「インフレ率が継続的に2%になるまで増税を延期する」という約束だ。これは財政赤字とインフレ率の関係が線形で、たとえば財政赤字が1割増えるごとにインフレ率が1%上がる、というような関係があることを前提にしているが、Del Negro & Simsのシミュレーションによると、そういう関係は必ずしも成り立たない。それをコントロールすることは可能だろうか?
理論的には、投資家がすべて合理的で、中央銀行がテイラールールに従って低金利に誘導すると、200%ぐらいに収まる可能性はあるが、これはあくまでも均衡条件なので、不均衡状態で何が起こるかはわからない。この点でSargentも批判するように、Simsがインフレ税を提言したのは無責任だ。

FTPLのような超合理的な世界ではなく、現実的な世界で試行錯誤すると、できないとも言えない。ただ投資家が日銀がインフレを起こす能力がないと知った以上は、黒田総裁が何%といっても効果はない。いうなら安倍首相だ。たとえば彼が記者会見で「政府と日銀のバランスシートを統合して物価水準が20%上がるまで財政赤字を拡大する」と宣言したら、市場は反応するだろう。

その後どうなるかはわからないが、インフレが年率2%で止まる保証はなく、日銀がそれを止めることもできない。市場が「安倍首相は本気らしい」と信じたら、Del Negro & Simsのシミュレーションのように急速に動くだろう。このとき同時に国際資本移動を規制しないと、インフレと円安のスパイラルに入るおそれが強い。

だから結論としては、政府は何もできないと思う。今のままゆるやかな衰退が続き、将来世代の負担は増えてゆくだろうが、それがハイパーインフレよりましとは限らない。