Antifragile: Things that Gain from Disorder
GEPRに書いたコラムを、少し学問的に説明しておこう。ここで書いたのは、経済学でいうナイトの不確実性である。これは定量化できるリスクとは区別される概念で、金融危機や戦争のように、予想できないが起こると大変な出来事をいう。

これはタレブのいうantifragileの問題で、ざっくりいうと最悪の事態が起こっても壊れないようにシステムを設計することだ。従来の経済学の概念でいうと、オプション価値を高めることに近い。核燃料サイクルの失敗の原因は、原子力村でも「規制の虜」でもなく、物理学者が技術の期待値を予想できると考え、失敗したときのオプションを考えなかったことだ。
こういう問題をどう解決するかは、経済学でもまだよくわからないのだが、タレブが提案するのは、最悪の場合の損害を最小化することだ。これに従うと、最悪の場合の損害が大きい核燃料サイクルよりも、低コストでオプションの広い非在来型ウランがまさる。

原子炉も、軽水炉よりも小型のIFRやSMRやTWRがまさる。もちろんIFRにも放射能もれなどのリスクはあるが、炉心溶融は原理的に起こりえないので、被害は限定される。問題は採算性だが、小型にしても部品をモジュール化して大量生産すれば、軽水炉より安くなる(はずだ)。

ただ、こうした第4世代の原子炉が実用化するまでには10年以上かかる。「夢のエネルギー」といわれた高速増殖炉が挫折したように、想定外の障害が出てくるおそれも強い。当面は軽水炉をなるべく息長く使いながら、次世代の原子炉を研究するしかないだろう。軽水炉の変動費は圧倒的に安いので、当面は火力にまさる。

資源の長期的な利用効率を考えると、有限な化石燃料を大量に燃やす火力発電はきわめて非効率で、廃棄物を大気中に放出する環境リスクも大きい。廃棄物が少なく、クローズドに完結する原子力のほうがリスクは小さい。最終的には、こういうリスクを数値化して社会的コストの最小化を考えるしかない。