責任と判断 (ちくま学芸文庫)
アーレントは『イェルサレムのアイヒマン』で大論争を巻き起こした。左翼は彼女に「ナチスを擁護する反ユダヤ主義者」というレッテルを張ったが、これは滑稽だ。彼女はユダヤ人だからである。レイシズムやら差別やらを糾弾する人々の知的水準は世界共通にこの程度だが、本書は『アイヒマン』の後に書かれた彼女の思索の軌跡だ。

彼女のテーマは悪とは何か、そして絶対悪は存在するのかという問いだった。ナチスは疑問の余地のない絶対悪にみえるが、何を基準にそれを悪と決めるのかは自明ではない。少なくともニーチェ以降の近代人は、キリスト教を根拠に悪を決めることができない以上、別の根拠が必要だ。

ソクラテスはそれを自己の自由意志に求めたが、自由の定義は「自由と感じること」という同語反復である。意志の存在も疑わしいので、それを根拠に悪を定義することはできない。人間が孤立しているなら、悪は存在しないのだ。

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