安保論争 (ちくま新書)
本書のテーマとする「安保論争」は、日本の政治には存在しない。あるのは「憲法第9条を守れば戦争は起こらない」という思い込みだけだ。これは「道路交通法を守れば交通事故は起こらない」というのに等しい。ルールを維持するには、それを監視する警察・司法機関が必要だという常識さえ野党には共有されていない。

これに対して本書の説くように、世界の地政学的な情勢は大きく変わりつつある。アメリカの世界戦略の中心はヨーロッパから太平洋に移り、中国を中心とする新興国との新しいパワー・ゲームが始まっている。かつての東西対立の焦点が東西ベルリンだったとすれば、今の焦点は尖閣諸島だ。

かつて圧倒的なプレゼンスで太平洋の秩序を守っていたアメリカに対して、中国が挑戦しようとしている。こういう状況で平和を守るために必要なのは憲法論議ではなく、日本がどのようにアメリカと連携して現在の秩序の「力による変更」を許さないかという戦略だ。集団的自衛権はその一環であり、憲法学者が決める問題ではないのだ。

こうした安全保障についての認識は、著者だけでなくアメリカ政府から日本政府に至る世界の常識だが、野党やマスコミには共有されていない。都知事候補まで「改憲の流れを東京から戻す」という現状は狂っている。

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