世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界 (ちくま学芸文庫)
イギリスが「産業革命」と民主政治によって繁栄したという類の歴史観は、最近では本書も示すように史実によって否定された。その覇権を可能にしたのは、ブローデルが世界=経済と呼んだヨーロッパ独特の水平分業システムだ。

中国やオスマンなどの世界=帝国では国家と経済が一体だったので、その支配地域を超えて貿易を行なうことができなかったが、バラバラの国家が分立していたヨーロッパでは、国境を超えた商業が早くから成立し、政教分離によって宗教的に敵対する国家間でも通商が行なわれるようになった。

携帯電話でいえば、世界=帝国ではガラケーのようにハード/ソフトが一体だが、世界=経済ではAndroidのように同じOSをサポートしていれば、ハードウェアは何でもよい。これがウォーラーステインのいう近代世界システムの最大の特長だ。

ここでは異なる宗教や言語が「主権国家」で分断されたままでも、資本主義というOSをサポートすればグローバル化できる。しかしイスラムのようにOSの異なるシステムが入ってくると、紛争が起こる。ガラケーは滅亡したが、イスラム教徒の人口はあと20年でキリスト教徒を超える。

ウォーラーステインは1968年を近代世界システムの終わりだとしたが、それは時期尚早だった。イギリスのEU離脱は、資本主義の祖国が世界=経済による統合を拒否したという点で、近代世界システムの終わりの始まりかもしれない。

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