すべての疲労は脳が原因 (集英社新書 829I)
このごろ〆切が重なったせいか、夜あまり寝られなくなった。オフィスに行く以外はほとんど運動してないのに疲労感がたまるのはなぜだろうか、と思ってこの本を読むと、疲労とは何かはまだよくわかっていないという。

今まで疲労は筋肉を動かして出る乳酸が原因だといわれていたが、これは間違いとわかった。疲労の原因は筋肉ではなく、体内でもっともエネルギーを消費する器官――脳なのだ。集中して作業するときは、体をコントロールする自律神経に負荷がかかり、活性酸素が増えて酸化物をつくるのが原因らしい。

まだはっきりした結論は出ていないようだが、これで私のように肉体労働をしなくても疲れる原因が説明できる。〆切に追われて集中するときも、同時に多くの神経を動かすコントロールが必要なので、自律神経に負荷がかかるのは陸上競技と同じなのだ。

これはカーネマンも指摘している行動経済学の知見とも符合する。人間は論理的な「システム2」で考えないで、反射的な「システム1」で行動することが多い。これはシステム2で思考を集中する自律神経の消費エネルギーを節約していると考えることができる。人々が合理的にものを考えないことは、エネルギー的には合理的なのだ。
規則正しい生活は疲労のもと

ここからいえるのは、疲れないためにはなるべく集中しないということだ。特に、無理な納期を設定して残業するサラリーマンの仕事は最悪だ。私も1週間で一番疲れる仕事は、ブログマガジンの送信設定だ。細かい集中力が必要で、間違えて配信したら直せないからだ。それに対して〆切がなく、好きなことを書いて後から直せるブログは疲れない。

ふだんの生活も、規則正しいのはよくないという。一定の規則に従って全身をコントロールする必要があるからだ。なるべくコントロールしない、だらだらした生活がいい。リラックスするためにスポーツするのも、競技はかえって疲れる。週末に1泊2日で駆け足で旅行するのもよくない。旅行するなら、2週間ぐらいリゾートに行って何もしないのがいい。

疲労回復にビタミン剤や栄養ドリンクを飲むのは効果がない。特に栄養ドリンクにはカフェインが含まれているので、かえって神経が興奮して疲れる。文科省の研究チームがいろいろな物質で試した結果、いちばん効果があったのはイミダペプチドという物質だったという。これは鶏肉の胸の部分に含まれる物質で、最近注目されており、サプリメントも売っている。アルツハイマーの予防にきくという報告もあるそうだ。