Empire: How Britain Made the Modern World
きのうのBrexitは、まさか本当に離脱するとは思っていなかったので驚いた。Vlogでも言ったように、主な原因はイスラム難民に職を奪われるのを恐れる労働者階級だが、キャメロン首相を国民投票に追い込んだのは、ピーター・バラカンのいう「昔は大英帝国として七つの海を支配した」というプライドをもつ保守党内の離脱派だった。

本書はニーアル・ファーガソンが、そういう大英帝国の歴史を肯定的に描いて批判を呼んだ。もちろん彼も大英帝国が世界各地を植民地化し、現地人を虐殺したり奴隷として売買したりした罪は認めているが、そういう「オリエンタリズム」批判にあえて異を唱え、もし大英帝国が征服しなかったら、まだムガール帝国やオスマン帝国のような専制国家が残り、世界の人々は貧困に苦しんでいたのではないかという。

特に彼が強調するのは、大英帝国がアメリカ合衆国を生み出したことだ。南米を征服したスペイン人は資源を強奪しただけだが、北米を征服したイギリス人は資本主義や民主政治を生み出し、それが近代国家のモデルとなった。いま多くの人が当たり前と信じている近代的な価値観を創造し、世界を文明化したのは大英帝国なのだという。
本当は凶暴なイギリス人

もちろんブローデルのいう「長い16世紀」にイギリスが世界で暴れ回り、特に北米に植民地をつくってプランテーションや奴隷貿易で多額の富を蓄積した歴史は認めている。それがイギリスで資本主義が生まれた最大の原因だったことも、最近の歴史学では常識だ。

しかしファーガソンは、現在の価値観でこうした「コロニアリズム」を批判するのは誤りだという。当時の植民地主義者はアジアを搾取するために行ったのではなく、古代以来の貧困のままにとどまっていた地域にキリスト教と近代文明を広める使命感で行ったのだ。彼らの大部分は富を得ないで、現地で死んだ。

だから大英帝国の歴史を「バランスシート」でみれば、それが近代的な価値観や市場経済を世界に広めた功績は、彼らのおかした罪に比べて大きい、というファーガソンの主張はそれなりに成り立つ。白人中心の英連邦は、キリスト教という共通の価値観を共有しているので、国連やEUより効率がいい。

しかし世界に「自由貿易」を宣伝する一方、実際の貿易は重商主義で、インドから数百年にわたって搾取を続けて工業化を妨害し、オスマン帝国を分割して中東に大混乱をもたらし、イスラエルを建国して現在の難民問題の原因をつくった罪は、軽いとはいえない。一般的なイメージとは逆に、イギリス人は凶暴な軍団なのだ。その一端は、今回のBrexit騒動でも垣間見えたような気がする。