自民党戦国史〈上〉 (ちくま文庫)
このごろ「安倍政権の言論弾圧」がよく話題になる。三浦瑠璃氏は、その原因はマスコミという「ムラ社会」が自律性を失ったためだというが、これは逆である。昔から政治家とマスコミは同じムラの中で、あるときは脅し、あるときは癒着して共存してきたのだ。

本書は大平正芳の側近が、田中角栄の失脚後の政争を個人名を出して赤裸々に描いたものだが、目立つのは新聞記者が派閥間のメッセンジャーとして活躍することだ。

特に大平に次ぐ派閥ナンバーツーと自認していたのがNHKの島桂次で、いわゆる椎名裁定で田中の後任に三木武夫が指名されたとき、大平派の幹部が深夜に集まり、大平の擁立を主張したのに対して、島は「兵を引け。明日の朝刊は大勢が三木総裁へとなっている」と反対した。翌朝の報道は各社とも「三木総裁へ」という見出しになり、大平派は撤退した。

この他にも、朝日の三浦甲子二は田中角栄に食い込んでNETという教育局を「テレビ朝日」にし、読売の渡辺恒雄は中曽根派の参謀として総裁選を仕切った。このように昔のほうが癒着はひどかったが、最近は政治家とマスコミの関係が(よくも悪くも)遠くなったため、昔は水面下でやっていた取引が表に出てギクシャクするようになったのだ。

その失敗例が慰安婦問題である。これは朝日の木村伊量社長が長期政権をめざして、安倍首相との関係修復のために特集記事で問題を清算しようと企画したものだったが、結果的には「事実誤認はあったが本質的には正しい」と開き直る記事になったため、かえって社会の批判を浴び、政権との対立が決定的になった。

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