200px-Shozan_Sakuma松本徹三さんの記事の「苦しい時ほど遠くを見よ」という言葉で、幕末の思想家(というより吉田松陰の師匠)として有名な佐久間象山を思い出した。

彼は朱子学者だったが、その本家である清がアヘン戦争でイギリスにあっけなく敗れた事件に衝撃を受けた。洋学にも通じていた象山は、イギリスの巨大な軍艦や大砲に対して、火縄銃しかない徳川幕府が戦ってもかなわないことをさとり、幕府に「外国を夷狄と呼ぶのはやめたほうがよい」という上書を出した。

国を守るという目的のために、かつて鎖国という手段がとられたが、今や鎖国や戦争で国防はできない。外国と話し合って条約を結ぶしかない。目的は国防であって鎖国は手段だったのだから、今は国防のために開国が必要なのだ――と説いた彼は、攘夷派に「裏切り者」として暗殺された。

アジアの国がすべて欧米の支配下に置かれた中で、日本だけが独立を守ることができたのは、国内の混乱から距離を置いて世界情勢を遠く見る象山のようなリアリストがいたからだ――と丸山眞男は「幕末における視座の変革」(『忠誠と反逆』所収)という1964年の論文で評している。

かつて丸山がコミットした「安保反対」も「護憲」も手段にすぎない。目的は平和を守ることであって憲法を守ることではないのだから、目の前の選挙の勝敗から離れて理念を立て直す「遠くを見る目」が、今の民主党には必要なのではないか。

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