帝国の構造: 中心・周辺・亜周辺
「帝国」は国家の最古の形態だが、20世紀に世界史から姿を消した。しかしそれは主権国家よりはるかに安定した統治機構であり、21世紀には新たな帝国が生まれるだろう――という本書の大筋はネグリ=ハートの焼き直しであり、図式は『世界史の構造』の繰り返しだ。

ただ日本の位置づけは、ちょっとおもしろい。ヨーロッパが世界を制覇した原因は国家と経済を分離した世界=経済をつくったためだというのがウォーラーステインのよく知られた主張だが、世界の他の地域がこれに適応できず植民地にされたのに、日本だけが生き残ったのは、なぜだろうか。

それはヨーロッパがローマ帝国という世界=帝国の亜周辺だったのと同様、日本が中国の亜周辺だったからだ、と著者はいう。亜周辺とは、政治・経済を統合した世界=帝国に直接支配された周辺ではなく、かといってそこから完全に切り離されてもいない地域で、世界=帝国の政治や文化を輸入しながら独立を守りえた。

したがってヨーロッパと日本だけに分権的な「封建社会」(社団国家)が生まれたのも偶然ではない。そこには強力な世界=帝国の支配が及ばないため、神聖ローマ帝国も徳川幕府も、名目的な権威(教皇や天皇)を残したままゆるやかに領邦を支配する形をとった。その領邦が独立して、世界=経済を生んだのだ。

これも梅棹忠夫以来の「生態史観」の変種であり、廣松渉が『生態史観と唯物史観』で論じた問題だが、著者はどっちも読んだ形跡がない。

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